LE MARI DE LA COIFFEUSE
原題:LE MARI DE LA COIFFEUSE
日本公開:1991年12月21日
製作国:フランス
言語:フランス語
画面:シネマスコープ
音響:ドルビー
上映時間:80分
配給:株式会社アルシネテラン
協賛:MaxMara
スタッフ
監督:パトリス・ルコント
脚本:パトリス・ルコント
脚色:パトリス・ルコント
   クロード・クロッツ
製作:ティエリー・ド・ガネー
撮影監督:エドゥアルド・セラ
美術:イヴァン・モシオン
編集:ジョエル・アッシュ
録音:ピエール・ルノワール
ミキシング:ドミニク・エヌカン
衣裳:セシール・マニャン
音楽:マイケル・ナイマン
キャスト
アントワーヌ:ジャン・ロシュフォール
マチルド:アンナ・ガリエナ
アントワーヌの父:ロラン・ベルタン
イジドール・アゴピアン(店の元オーナー):モーリス・シュヴィ
モルヴォワジュー(常連客):フィリップ・クレヴノ
ジュリアン・ゴラ(妻にぶたれる男):ジャック・マトゥ
ホモの客:クロード・オーフォール
ドネケル(お話をしてくれる客):アルベール・デルピー
12歳のアントワーヌ:アンリ・ホッキング
モルヴォワジューの婿:ティッキー・オルガド
子供客エドアールの養母:ミシェール・ラロック
シェーファー夫人:アンヌ=マリー・ピザニ
ストーリー
 バリカンをそっと自分の髪に当ててみながら、アントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)は思い出のなかにひたっていく——。
 故郷ノルマンジーの海岸、母の手製の水着に悩まされた少年時代。腰に揺れるサクランボ型の飾りより、問題は毛糸なので乾かないことだった。股を擦らないように脚を広げて歩き、おかげで性器への興味が高まった。
 その頃すでに床屋好きで、アルザス出身の赤毛の美女シェーファー夫人(アンヌ=マリー・ピザニ)の店に通いつめた。ローションや化粧水の香り、そして何より夫人の強烈な体臭に酔いしれた。12歳の夏、はだけた襟元から彼女の乳房が見えた時の衝撃。その晩、「女の床屋さんと結婚する」と宣言して父(ロラン・ベルタン)にぶたれたが平気だった。
 マチルド(アンナ・ガリエナ)と出会ったのは10年前。ホモのイジドール(モーリス・シュヴィ)の理髪店で働いていた彼女は、彼から好条件で店を譲り受け、ひとりで開業したばかりだった。初めて店に入った時、なぜか彼女は予約客があると嘘をついた。25分後に出直した。人生で2人目の、愛する理容師と出会った感動に震えながら。散髪の間、思い描いたのは彼女の乳房。少年の日にシェーファー夫人の急死にあって以来、求め続けてきたものだった。「結婚してください」 だがマチルドは何も答えなかった。その夜は彼女の部屋の下で明かした。
 人生は単純だ、と父が言っていた。物でも人でも強く望めば手に入る、と。砂浜に海水をせき止めようとして諦めかけた時、ちょうど近くにいたブルドーザーの助けでとうとうそれをやってのけたことを思い出し、3週間後に再び店へ。長椅子で順番を待ち、シャンプー、カット。終わってレジに立ち、やっと彼女は言った。「妻になります」 それから初めて会話らしい会話を交わした。「ずっとここにいよう…昔のことは忘れよう……」
 結婚式。相手が理容師と知って父は心臓マヒで死に、母は喪中を口実に欠席。マチルドには家族はないので、お客は兄夫婦とイジドールだけ。兄から贈られた12歳の水着姿の写真を見て、「今のあなたがただ小さくなったみたい」と笑ったマチルド。ウエディング・ドレス姿で飛び入り客の髭を剃ったマチルド。故郷の海への新婚旅行も早々と切り上げ、二人は愛する店に戻った。幸福はこの場所で、永遠に続くはずだった……。
 シャンプーしてもらいながら彼女の脚を愛撫した満ち足りた時間。そんな時、あたふたと店に飛び込んできた男(ジャック・マトゥ)。追ってきた妻に強烈なビンタをくらった彼は、ジュリアン・ゴラと名乗り、子供が3人できたため妻は卓球選手を諦めたのだと語った。
 ある夕方、雑誌のダイエット法を読みあげたマチルド。愛おしくて、15分も早く店を閉めた。「君が痩せたら自殺する」 抱擁に応えながら彼女は言った。「約束して、愛しているふりだけは絶対にしないと」
 マチルドのお腹が妊娠して膨らむことなど考えられなかった。子供は客だけでいい。床屋嫌いの子も、彼の得意のアラブ踊りでごきげんになった。友達も要らない。二人のほかには何も要らなかった。いつか宝くじを1枚買って、当たったらナイルへ行き1日中踊ろう、と夢を語った時、腕の中でマチルドはせつなそうに言った。「しっかり抱いて……男は大勢いたけど、もうあなただけ……」
 客のドネケル氏(アルベール・デルピー)はよく詩や物語を聞かせてくれた。「魅力というものはいつか消える……」 マチルドが合図をよこすと、仕事中の彼女を、ドネケル氏に気づかれないように愛撫した。彼女の魅力は深刻ぶらないこと、と思っていた。
 夢のように10年が過ぎた。ケンカはただ一度。ほんの些細なことが原因だったが、その夜は眠れなかった。夜中に店でタバコを吸っていると、マチルドも寝室から下りてきた。タバコは二人とも久しぶり。お酒が飲みたい、と彼女。オーデコロンや化粧品で作ったおかしな”カクテル”に酔い、アラブ音楽で踊り狂い、鏡の前で愛し合った。世界中で一番幸せ、と言い、離れるのは死ぬ時、とも言った彼女。
 翌朝、ゴラ氏が顔を見せた。妻に去られたという彼は、3人の子を連れていた。
 休みの日、二人で老人ホームにイジドールを訪ねた。一見、何不自由ない環境。だが孤独な彼はすっかり老け込み、寂しそうだった。
 二人の常連客(フィリップ・クレヴノ、ティッキー・オルガド)は、その日は死について議論していたが、アントワーヌはただ、彼らがいなくなった後の、静かな海のような時間を待ち望んでいた。やがて彼らは出ていき、見送りながらマチルドは呟いた。「背中が曲がったわ……人生って嫌ね」 それから夕立が来た。マチルドがいつになく激しく求めてきた。終わると「買い物に行く」とどしゃぶりの雨の中へ飛び出していき、止める隙もなかった。そして彼女は濁流に身を投げた。「あなたが死んだり、私に飽きる前に死にます……」と書き残して——。
 その後もアントワーヌは、いつもの長椅子に座ってクロスワードをしていた。チュニジア人の客が来たので洗髪してやり、一緒にアラブ踊りで盛り上がり、またクロスワードに戻る。「家内が戻ります」 アントワーヌは客と一緒にじっと待ち続けるのだった。

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