All Under the Moon
英題:All Under the Moon
日本公開:1993年11月06日
製作国:日本
言語:日本語
画面:ヴィスタサイズ
上映時間:109分
製作・配給:シネカノン
製作協力:パイオニアLDC/アミューズビデオ
スタッフ
監督:崔洋一
脚本:崔洋一
   鄭義信
原作:梁石日「タクシー狂躁曲」
プロデューサー:李鳳宇
   青木勝彦
撮影:藤澤順一
照明:上田なりゆき
美術:今村力
   岡村匡一
編集:奥原好幸
録音:北村峰晴
衣装:岩崎文男
装飾:平井浩一
音楽:佐久間正英
音楽プロデューサー:石川光
音楽録音:町田尚己
スタント:大西正昭
スクリプター:小泉篤美
キャスティング:網中洋子
監督補:祭主恭嗣
助監督:前田哲
製作主任:氏家英樹
題字:黒田征太郎
エンディングテーマ曲:憂歌団「Woo Child」
キャスト
姜忠男(神田忠男):岸谷五朗
コニー:ルビー・モレノ
忠男の母・英順:絵沢萠子
金世一(金田世一):小木茂光
朴光洙(新井光洙):遠藤憲一
ホソ:有薗芳記
仙波:麿赤児
多田:國村隼
おさむ:芹沢正和
安保:金田明夫
谷爺:内藤陳
やくざ:木村栄
やくざ:瀬山修
ハッサン:ハミッド・シャイエステ
ロリータ:メリー・アン・リー
アイリーン:マリア・シュナイダー
ルビー:エヴリン・タンセコ
サラリーマン:萩原聖人
司会者:金守珍
チョゴリの女:金久美子
新郎関係者:朱源実
JJ女:たくみまり
民団幹部:黄佑哲
舞踏会:下仁子 金田タクシーの面々:城春樹
金田タクシーの面々:吉江芳成
金田タクシーの面々:木下雅之
紺野:古尾谷雅人
ストーリー
 春。姜忠男(岸谷五朗)の勤める金田タクシーに新人が入ってきた。元自衛隊員で四角四面の新人、安保(金田明夫)をいいようにからかう運転手仲間たち……「チョーセン人は大嫌いだけど忠さんは大好きだ」と忠男にまとわりつくパンチドランカーのホソ(有薗芳記)、ヤンキーあがりでヤクザに憧れているおさむ(芹沢正和)、強欲な谷爺(内藤陳)、出稼ぎイラン人ハッサン(ハミッド・シャイエステ)……きちっとした会社勤めには不向きな男たちばかりである。その日、忠男は二代目社長の金世一(小木茂光)とともに友人の結婚式に出席する。仕事を離れれば二人は朝鮮高校の同級生という間柄だ。どうやら花婿は北系、花嫁は南系。司会者(金守珍)も新郎新婦両サイドに気を遣い、苦労している。極彩色の宴席は北だ南だ、統一だとかまびすしいが、忠男は女のコを口説くのに忙しく、世一はやはり元同級生の金融業者光洙(遠藤憲一)とゴルフ場投資の話に夢中になっている。
 母親、英順(絵沢萠子)の経営するフィリピン・パブのホステスを送り迎えするのが日課になっている忠男は、ある日新顔のコニー(ルビー・モレノ)という女と出会う。妙な大阪弁で生意気な口をきく彼女になぜか魅かれる忠男。店では英順がホステスたちにいかに自分が異国の地で苦労してきたか、皆も死ぬ気で働け、金がすべてだ、と檄を飛ばすが、「うちらただの出稼ぎでっせ」とコニーたちはシラケきっている。忠男はコニーを口説こうと、多少脚色した”悲しい生い立ち”を物語るが、たくましい彼女には通用しない。作戦を変え、半ば力づくでコニーを抱いてしまう忠男。あげくに留守の間にコニーの部屋に引っ越してきてしまう。「ポリス呼ぶで!」とわめくコニーだが、いつしかお調子者の忠男のペースにのせられてしまうのだった。
 恋におちたふたりを英順は認めない。彼女の理想とする嫁はあくまでも同胞でなくてはならず、フィリピーナも日本人もチェジュドーも対象外なのだ。そこへホソも加わって、三者三様の忠男争奪戦が始まる。
 一方、金田タクシーの内情は惨憺たる有様になっていた。安保は信じ難いほどの方向音痴だ。電話に出る管理職の仙波(麿赤児)も呆れて「月に向かって走って来て下さい」と適当にいなすだけ。多田(國村隼)は女房に逃げられ、乳飲み子をおぶって出社してくる。おさむは新宿でコロンビア人を乗車拒否して乱闘になり、仙波に説教されている。彼は以前にもタコグラフのことで仙波と一悶着あり、今度こそ近代化センターから呼び出されそうなのだ。その上洗車係のハッサンが勝手に営業し、逮捕されてしまう。怒りまくる世一に最悪の知らせが入る。ゴルフ場投資をそそのかした張本人の光洙が不渡を出し逃亡中、というのだ。傾きかけた会社からは給料が出ないらしい、と知って騒ぎはじめる社員たち。慰安旅行の積立金のことを思い出した彼らはヤケクソ気味で温泉に繰り出す。「幹部研修会ご一行様」と称してどんちゃん騒ぎをした一行は宿代が払えず、結局世一が尻ぬぐいをすることになる。
 その頃から、もともとおかしかったホソの言動が目に余ってきていた。ある夜、ホソはしたたかに飲んだ上に心配する忠男を路上で殴り倒し、営業車に乗ったまま行方をくらましてしまう。大騒ぎしている会社に、別れた子供と一緒に故郷の新潟で保護されたと連絡が入る。身元引き受け人として警察に出頭した忠男に、「一瞬金貸してくれよぉ」といつものように甘えるホソだが、すでにその目付きは尋常ではなかった。
 忠男自身の先行きも不透明だった。英順とコニーは忠男をめぐってののしり合う。「忠男が母親のあたしを棄てるわけないでしょ」という強情な英順にも忠男は辟易している。とうとうコニーと大喧嘩をして部屋から飛び出してしまう忠男。
 そんなある日、忠男が乗せた若いサラリーマン(萩原聖人)が乗務員証を見て「生姜の姜だもんな、ガーさんつうの?」となれなれしく話しかけてくる。忠男が朝鮮人だと答えると新聞で読みかじった慰安婦問題を得意気にしゃべり始めた。柳に風と聞き流す忠男だが、支払いの段になって態度を豹変させる。持ち合わせがないから待っててくれ、と家に取りに行くフリをした男が脱兎のごとく逃げ出したのだ。必死に追いかけ、料金をもぎとった忠男は恐怖に引きつる男に釣り銭を返し、怒りをこらえて「ありがとうございました」と頭を下げるのだった。
 初夏。職場も恋愛も末期的症状だった。忠男は教会で礼拝中のコニーに甘い言葉をささやき、フィリピン行きの意思も匂わせるが、もう遅すぎた。口では愛してる、と言いながらも煮え切らない恋人に見切りをつけ、コニーは新しい店に移る決心をしていたのだ。忠男は後ろめたい思いでひなびた街道筋にある店にコニーを送っていく。寂しげに見送る忠男を残し、コニーはいさぎよく新しい道を歩きはじめた。
 金田タクシーには姿をくらましていた光洙が、明らかにヤクザをわかる金融業者、紺野(古尾谷雅人)と共に現れた。世一は投資に失敗し、会社を担保に取られ、今度は光洙の借金まで肩代わりして紺野から大金を借りるハメになり、顔面蒼白である。おびえる社員をよそに、忠男は「俺たち日本の法律守んなくたっていいんだぞ」と茶化し、いきなり光洙にチョーパンを入れる。しかし所詮ケンカのプロにはかなわず、世一は15億もの借用書にサインしてしまう。その経緯を知った社員たちには、まっとうな営業努力で会社を立ち直らせる気力はすでになくなっていた。
 倒産寸前の金田タクシーには金融ヤクザがいすわり、監視の目を光らせている。その社長室からいきなり黒煙と炎が吹き上がる。思い詰めた世一が放火したのだ。あわてふためくヤクザも社員たちも火を消そうと必死になっている。火だるまの世一が飛び出してきて、身勝手にも今度は火を消せ!とわめき散らしている。ヤクザは火事を放り出して世一を追いかけ、多田やおさむはホースを手にパニックをきたしている。彼らの必死の形相を見ていた忠男はあまりのバカバカしさに大笑いしてはしゃぎまくるのだった……。
 初秋。あの日コニーと別れた店へ車を走らせる忠男。違うタクシー会社の車に乗っている。店の前の電話ボックスから「あの女は悪い病気を持ってる」と匿名電話をかける。待ち構える忠男の前に案の定、店を追い出されたコニーが飛び出してくる。
「どこまで?」「マニラまで」「毎度ご利用、ありがとうございます。私、タクシー運転手のガーです」タクシーは東京のふところに抱かれるように走っていく……。

月はどっちに出ている [DVD]