
米国公開:1998年10月30日
日本公開:2000年02月19日
製作国:アメリカ合衆国
言語:英語
画面:ビスタサイズ
音響:ドルビーSRD、SDDS
上映時間:120分
配給:日本ヘラルド映画
【スタッフ】
監督:トニー・ケイ脚本:デヴィッド・マッケンナ
製作:ジョン・モリッシー
製作総指揮:ビル・カラッロ
キアリー・ピーク
スティーヴ・ティッシュ
ローレンス・ターマン
撮影:トニー・ケイ
美術:ジョン・ゲイリー・スティール
衣装:ダグ・ホール
編集:アラン・ハイム
ジェリー・グリーンバーグ
音楽:アン・ダッドリー
【キャスト】
デレク・ヴィンヤード:エドワード・ノートンダニー・ヴィンヤード:エドワード・ファーロング
ドリス・ヴィンヤード:ビヴァリー・ダンジェロ
ダヴィナ・ヴィンヤード:ジェニファー・リーン
アリー・ヴィンヤード:タラ・ブランチャード
デニス・ヴィンヤード:ウィリアム・ラス
セス・ライアン:イーサン・サプリー
ステイシー:フェアルザ・バルク
ボブ・スウィーニー:エイヴリー・ブルックス
マーレイ:エリオット・グールド
ラモント:ガイ・トリー
キャメロン・アレクサンダー:ステイシー・キーチ
マクマホン:ポール・ル・マット
【ストーリー】
始まりは、モロッコの少年が放った、一発の銃弾僕の名は、ダニー・ヴィンヤード(エドワード・ファーロング)。カリフォルニアのヴェニス・ビーチ高校に通っている。尊敬する人物は、兄のデレク(エドワード・ノートン)。そのデレクが3年ぶりに刑務所から出所する日、僕はスウィーニー校長(エイヴリー・ブルックス)の呼び出しをくらった。国語のレポートの題材に、ヒトラーの「わが闘争」を選んだからだ。校長はこう言った。
「兄弟をテーマに作文を書け。タイトルは『アメリカン・ヒストリーX』。デレクが投獄された経過を分析してみろ。それが現代のアメリカにおける君の生き方を、どう変えたか」
だからいま、僕はこうしてコンピュータの前にすわり、過去の記憶をたどっている。
地元のスキンヘッドのリーダーとしてカリスマ的な存在だったデレク。彼がその道に足を踏み入れたのは、消防士をしていた父(ウィリアム・ラス)が、勤務中、黒人のドラッグ・ディーラーに殺されたことがきっかけだった。デレクの心にふくれあがる憎悪の感情。それに目をつけたのが白人至上主義グループの黒幕キャメロン(ステイシー・キーチ)で、彼からスキンヘッドのリクルート役に抜擢されたデレクは、組織の中でめきめき頭角を現していった。限界まで鍛え上げた筋肉、左胸に勲章のように輝く鍵十字の刺青。黒人を相手にしたストリート・バスケで見事なシュートを決め、韓国人経営のスーパー襲撃でも誇らしげに扇動役をつとめたデレクの姿は、弟の僕の目にも完璧なヒーローとして映った。だから僕も彼の後を追い、腕に刺青を入れてキャメロンの組織に加わることにしたのだ。
が、刑務所から戻って来たデレクは、そんな僕を見て顔を曇らせる。仲間のセス(イーサン・サプリー)の訪問にも、迷惑顔だ。いったいデレクに何が起こったのだろう?
いまも鮮烈に思い出すのは、デレクが刑務所行きになる事件が起きた、3年前のあの日のことだ。僕たち家族は、父を亡くした喪失感からどうにか立ち直り、母(ビヴァリー・ダンジェロ)は国語教師のマーレイ(エリオット・グールド)と交際を始めていた。しかし、マーレイを交えた夕食の席で人種暴動の話題が持ち出され、デレクとマーレイ、リベラルな姉のダヴィナ(ジェニファー・リーン)が対立。激昂したデレクが姉を殴ったことから、お袋までがマーレイに捨てられるハメになった。そんな最悪の1日を締めくくる事件が起きたのは、深夜のことだ。事の発端は、デレクが恋人のステイシー(フェアルザ・バルク)とベッドインしている最中に、3人組の黒人がデレクの車を盗もうとしたこと。それに気づいた僕の叫びを聞いて通りに飛び出したデレクは、間髪入れずにまず見張り役を射殺。車を盗もうとしていたひとりを舗道に組み伏せ、親父の復讐を果たす機会がめぐって来たとばかりに残虐に首の骨を踏み折った。駆けつけたパトカーのライトを浴び、勝ち誇った笑みを浮かべるデレクの表情を、僕は一生忘れないだろう。
しかし、いまのデレクは、あのときとは別人のようだ。キャメロンが開いた出所祝いのパーティーに現れた彼は、「足を洗いたい」と言い出し、仲間から裏切り者呼ばわりされる始末だ。僕も思わず言った。
「兄貴なんか大嫌いだ!」
するとデレクは、静かに語り始めた。自分を変えた刑務所での出来事を…。
刑務所では、孤立した人間は狙われる。そう考えたデレクは、自分と同じスキンヘッドの一団に加わった。しかし、彼らはヒスパニック(メキシコ系)グループとつるんでドラッグの商売に手を染めるというポリシーの欠片もない奴らで、それを知ったデレクが反抗的な態度に出ると、凄まじい暴行を加えた。仲間に裏切られた失望と、保護を失った恐怖が、デレクを絶望のどん底に突き落とす。そんな彼に、陰から救いの手を差し伸べたのが、同じ洗濯室で働く黒人受刑者のラモント(ガイ・トリー)だった。自分が出所の日まで生き延びられたのは、ラモントが黒人グループを制止してくれたおかげだった――そう気づいたデレクは、偏見を持つことがいかに愚かしく、怒りを燃やすことがいかに非生産的な行為であるかを悟ったのだ。
「俺は目が覚めてラッキーだった」と語るデレクの言葉が、ゆっくりと僕の胸に染み込んでいく。そのとき、僕は思い出した。デレクも、昔は黒人文学の話題に目を輝かせるオープンなハートの持ち主だったことを。そこに狭量の種を芽生えさせたのは、マイノリティの優遇政策に意義を唱える父との何気ない会話だった。あのときからこれまでの失われた時の重みを思い、僕の目からは涙がこぼれおちる。
でも、僕とデレクの未来はこれからだ。新しい1日の始まりと同時に、僕たちは生まれ変わるのだ。兄の描いた「ヒストリー」が決して無駄にはならないことを、僕は心の底から信じたい……。